ホスピス型住宅のReHOPE | ホスピス・介護の基礎知識 | ご家族の声 | ACP(アドバンス・ケア・プランニング)とは?話し合う内容や進め方などを解説!
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この記事の監修者
松村 広子(まつむら ひろこ)
株式会社シーユーシー・ホスピス 看護クラーク多治見 看護管理者
プロフィール
総合病院にて手術室看護師を10年。その後外科外来、外科病棟に勤務し、がん患者様と多く関わる。手術をしても良くならず、苦しい思いをして過ごしている方の多いことにショックを受け、もっと専門的に学びたいと思い認定看護師教育課程へ進む。
その後緩和ケアチーム、緩和ケア看護外来、緩和ケア病棟、地域連携支援センターを経てそれぞれの緩和ケアを学び、在宅でその人らしく最期まで寄り添う看護を提供したいと考え、2023年 シーユーシー・ホスピスに入社。
ACP(アドバンス・ケア・プランニング)とは、人生の最終段階においてどのような人生を送りたいかについて、ご本人とその家族、医療・介護・看護の関係者が繰り返し話し合うプロセスのことです。
「どのように過ごしたいか」ではなく、「どのような医療やケアを受けたいか」に焦点を当て、より事実に即した表現にしました。いかがでしょうか?
人生の最終段階では、病状悪化によって約70%の方が自らの治療に対する意思や希望を伝えられなくなる※と言われています。このような事態を避けるため、今後の治療方針などについて、できるだけ早い段階から話し合っておくことが重要です。
本記事では、ACPの概要について詳しく解説していきます。また、ACPが必要な理由や話し合う内容、ケース別の解決策も紹介するのでぜひ参考にしてください。
※出典:厚生労働省|アドバンス・ケア・プランニング いのちの終わりについて話し合いを始める
ACP(アドバンス・ケア・プランニング)とは、今後の治療や療養について、ご本人が 患者あるいは見込み患者が、家族や医療従事者と事前に話し合う自発的なプロセスのことです。ACPは、高齢化が進み在宅や施設での看取りが増えている現在、いざという時に医療従事者以外の人も、本人の意思を知っていることは大切です。
従来の日本では、終末期に自らの意思で判断ができなくなることに備えて、延命するか胃ろうを作るか否かなど、医療に関する重要な意思決定を事前に話し合う習慣があまりありませんでした。しかし、いざという時に本人の意思がわからず、家族や医療従事者が自信を持って判断できない、後悔が残るようなケースが増えたことにより、ACPが推進されるようになりました。
なお、ACPはもともと1990年代に米国で提唱され、日本で生まれた概念ではありません。
病や死について考えることは、時に治療内容を超えて本人の価値観、人生の目標などにも関わった内容になります。厚生労働省は、ACPを推進するべく「人生会議」という愛称をつけ、毎年11月30日を、人生の最終段階における医療やケアについて、またその人の死生観について広く考え会話する「人生会議の日」としています。
出典:厚生労働省|アドバンス・ケア・プランニング いのちの終わりについて話し合いを始める
ACPと同様に人生の最期を事前に取り決めるものには、事前指示書やリビングウィル、委任状などがあります。それぞれの概要を以下の表にまとめたので、比較しながら違いを見ていきましょう。
概要 | |
ACP | 主に今後の治療や療養について、本人(患者あるいは見込み患者)が、家族や医療従事者と事前に話し合う自発的なプロセスのこと |
事前指示書 | AD(アドバンス・ディレクティブ)とも呼ばれる、終末期における医療・ケア全般について自身の意思を記録したもののこと |
リビングウィル | 人工呼吸や胃ろうなど、個別の医療処置に関して、将来自分が意思表示できなくなった場合に「受けたい」または「受けたくない」という希望を医師に伝える目的で事前に作成する書面のこと |
委任状 | 医療に関する委任状を指し、自身の判断力が低下または判断できない状況になった際、自身の医療に関する決定を代理人に委任するための法的文書のこと |
インフォームド・コンセント | 医療従事者が、患者や家族に対して病状や治療内容について説明し、医療処置を進めるにあたって同意を得ること |
ACPは年齢や健康状態を問わず人生の最期を考えはじめたときから進められる会話であり、あらゆる人が対象です。本人の意思や希望を明確にしておくことが大きな目的です。
また、期限を決めて短期間に作るものではないため、本人の価値観・死生観や人生における希望についてなど、広く深く考えたり会話したりできると理想的です。
特に、何らかの疾患を抱えた場合は、今後の治療や療養生活について具体的に考える必要が生じるため、ACPの重要性がより一層高まります。
一方の事前指示書は、終末期で本人の意思が確認できない場合などに向けて、主に希望する医療選択を示すために作成されます。
そのため、ACPにて話し合った内容や意思を徐々に明確にし、事前指示書にて具体的な医療選択に落とし込むのもよいでしょう。
ACPとリビングウィルの主な違いとしてあげられるのは、それぞれの内容が示す範囲があります。リビングウィルは基本的に個別の医療処置に焦点を当てているのに対し、ACPは医療処置だけでなく受けたいケア、終末期の過ごし方など幅広い意思に関わる点が特徴です。
なお、本人の意思が確認できない状態に陥った多くのケースにおいて、医師はリビングウィルを尊重して終末期の医療対応を決定していきます。
ACPと委任状の大きな違いには、法的効力の有無があげられます。ACPは話し合いが中心となるプロセスであり、文書に残したとしても法的な拘束力はありません。しかし、委任状(医療委任状)は本人が判断できなくなったときに判断を他者に委ねることを示し、法的拘束力を持ちます。ただし、国や地域によって法的拘束力の程度は異なります。
ACPとインフォームド・コンセント(IC)は、それぞれ役割や適応範囲が異なります。ACPには、医療処置や終末期の過ごし方など本人の意思や希望を幅広く話し合って理解する役割があり、インフォームド・コンセントは医療処置を進めるための同意を得ることが大きな役割です。
また、インフォームド・コンセントは個別の医療処置に対して必要で、各治療・検査・処置ごとに行われます。
ACPは、急な病状の悪化や不慮の事故により本人が判断ができなくなった際でも、家族が迷わずに対応できるというメリットがあります。また、事前に周りの人と話し合うことで、本人の希望を尊重した医療や介護の選択を迅速に行えるため、家族の精神的負担が軽減され、後悔のない選択につながるのも特徴です。
このように、ACPを事前に考えておくことで、いざというときの対応がスムーズかつ迅速になるだけではなく、患者本人にもご家族にとっても最適な判断ができるといえるでしょう。
人生の最終段階における医療の在り方については様々な考えがあり、特に延命措置の是非に関しては本人や家族の意向を反映させるのが一般的になっているため、本人が判断できる時にACPを考えておくことが大切です。
ACPを考えるタイミングに明確な決まりはなく、思い立った時がその時です。ただ、病気になると想像以上に進行が速かった、などということもあり得ます。早くから考えはじめられるとよいでしょう。これを人生会議を行うといいます。
本人の意思、本人が決断できるタイミングであることが大切です。
自分が、いつ最期のときを迎えるかはわからないため、なるべく早く自分の思いを周りの人に伝えておくことが大切です。
実際にACPを行うときは、具体的にどのような内容を話し合うべきなのでしょうか?
話し合うべき内容は主に3つあります。
①病状や予後の理解
もし既に病気の治療中である場合は、現時点での症状や、今後どのようになっていくことが予想されるかなど、医療的見地から病気に関する理解をしましょう。そのうえで、ACPを考えていくことが大切です。
②患者の価値観や目標
本人の価値観・死生観や、療養生活・治療生活においても大切にしたいことを細かく話しておきましょう。人によって価値観は異なるため、小さいと思われることでも知っておく、聞いてあげることが重要です。
③治療や療養に関する意向とその提供体制
人工呼吸器や心肺蘇生などの延命治療を望むかどうかや、自宅・病院・施設のどこで最期を迎えたいかという点について話し合いましょう。医療体制や介護環境には様々な制約があります。
たとえば、特定の治療は病院でしか受けられなかったり、自宅での療養には限界があることもあります。こうした環境的な要因も含めて検討することが大切です。
また、本人の価値観や希望に沿った生活の質を重視し、残された時間をどのように過ごしたいかについても話し合いましょう。
ACPで話し合いを行う際は、本人の気持ちを尊重し、家族の意見や医療的見解を無理に押し付けないことが大切です。すぐに結論を出す必要はなく、何度でも話し合いながら決定していくことで、より本人の意向にあったものになります。
ACPを進める際は、大きく分けて3つのステップがあります。
①まずは本人と家族で話す
本人の意向を聞き、価値観を共有しましょう。本人の意思確認が可能な場合には、本人の意思決定が基本になります。
②医療・介護の専門家に相談
ACPの進め方や医療選択肢を理解しましょう。希望が叶うかどうか、医学的妥当性・適切性の判断も必要になります。
③書面にまとめる/記録を残す
最後に人生会議ノートやエンディングノートに記録します。時間の経過や心身の状況に応じて本人の意向が変化することも踏まえ、繰り返し話し合いを行い、都度文章に残すことが大切です。
ここまで、「ACPは本人の意向を最も尊重するべき」と解説してきました。しかし、本人を想うあまり家族間で意見が対立したり、本人が話し合いへの参加を拒否する、といったケースもあります。
ここでは、ACPを行ううえで困ったケースの解決策を、具体例をもとに紹介します。
末期がんの母の看取り方について話し合ったが、家族の意見が分かれてしまった。母は「延命措置は希望しない」と言っていたが、父は「できる限り治療を受けさせたい」と主張し、兄弟間でも意見が一致しない。
ACPはあくまで本人の希望を尊重するものなので、母親が延命措置を望まないのであれば、その意向を基に考えることが重要です。
病院のソーシャルワーカーやACPを支援する医療スタッフに相談し、家族の意見のすり合わせをサポートしてもらった上で再度意見を聞くことも大切です。
すぐに結論を出す必要はありません。時間をかけて家族全員が納得できる結論になるまで話し合うプロセスが大切です。
高齢の父に終末期についての話をしようとしたが、「そんな話は縁起が悪い」「まだ元気だから考えたくない」と拒否されてしまい、進められない。
軽い雑談の中で「もし交通事故に遭ったら?」「入院した友人が家族ともっと話し合っておけばよかったと言っていた」など、身近な出来事をきっかけに、家族の立場としては、いざというとき後悔しない決断をしたい、そのために事前に話し合いたい、と伝える方法です。
「お父さんはどういう暮らしが好き?」「病院より自宅で過ごしたい?」など、医療ではなく生活の話から入ることで、間接的に聞き出す方法です。単刀直入に聞くよりもお互いに精神的負担が少なく、話しやすい雰囲気になります。
まずは「今すぐ決めなくてもいいけど、少しずつ考えてみない?」と軽く誘う程度に留め、無理に結論を迫らないことも大切です。徐々に話しやすい環境を整えてみましょう。
ACP(アドバンス・ケア・プランニング)とは、いつかは必ずやってくる終末期の迎え方・過ごし方について、本人が家族や医師と話し合いを繰り返し、事前に意思を伝える会話のプロセス。早いうちからACPに取り組むことで、いざというときの意思決定がスムーズかつ迅速に行えたり、家族や医療従事者の負担軽減ができたりするメリットがあります。
人生の最終段階を迎えるタイミングがいつなのかは、誰にも予想はできないものです。想像していたよりも、早くやってくることもあり得ます。本人、家族共に後悔のない人生の締めくくりができるよう、今からACPについて考えてみてはいかがでしょうか。
ACPとは、今後の治療や療養について家族・医療従事者と事前に話し合う自発的なプロセスのことです。もともとは米国で生まれた概念であり、日本でも広く推進され始めてています。詳しくは記事内「ACP(アドバンス・ケア・プランニング)とは」をご覧ください。
ACPで話し合う内容は、大きく分けて3つあります。「①現在の病状や予後について」、「②患者自身の価値観や今後の目標について」、「③治療に対する希望や提供体制について」です。詳しくは記事内「ACPでは具体的に何を話し合うべき?」をご覧ください。
ACPの目的は、主に3つあります。「①本人の意思を尊重するため」、「②家族の精神的な負担を減らすため」、「③円滑な医療連携を行うため」です。このように、本人が望む最期を迎えられるような事前準備が大きな目的だといえます。詳しくは記事内「ACP(アドバンス・ケア・プランニング)とは」をご覧ください。