ホスピス型住宅のReHOPE | ReHOPEだより | ご入居者さまの声 | 父は最期まで笑顔だった――Jリーグ「カターレ富山」社長が当事者として語る、ホスピス型住宅の可能性
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先日、富山新聞の連載記事にて「ReHOPE 東戸塚」の取り組みについて取り上げていただく機会がありました。
執筆者は、プロサッカーチーム「カターレ富山」の代表取締役社長である左伴繁雄さん。左伴社長のお父様がReHOPE 東戸塚に入居され、お看取りをした体験を綴ってくださったのです。
ご入居者さまのご家族としての体験、また地域貢献に取り組むプロスポーツチームの経営者としての視点、双方を踏まえて、これからのホスピス型住宅および終末期医療の在り方について、お話をうかがいました。

<プロフィール>
左伴 繁雄さん(写真中央)
株式会社カターレ富山 代表取締役社長
藪 康人さん(写真右)
株式会社シーユーシー・ホスピス 代表取締役
田中 貴大さん(写真左)
株式会社シーユーシー・ホスピス/ReHOPE 東戸塚 施設長
田中:
実は私、Jリーグの選手として活動していた時期があるんです。もう十数年前のことになりますが、カターレ富山との試合にも出場したことがあって。15分ほどのプレーでしたが、全然うまくいかずにすごく怒られたので、今でも記憶に残っています。
左伴:
おお、そうでしたか。
田中:
だから今回、左伴社長に「ReHOPE 東戸塚」の取り組みを評価していただき、とてもうれしく思っています。
左伴:
私の95歳の実父が最期を迎えるにあたり、お世話になったのがReHOPE 東戸塚のみなさんでした。亡くなる直前、それこそもう24時間を切ったくらいのときに、父が「至れり尽くせりだ」とニコニコしながら言っていたんですよ。
誕生日をスタッフのみなさんに祝っていただいたり、もう固形物はほとんど喉を通らないにも関わらず、いろいろな味付けをした流動食を用意してもらってそれを完食したり、私に「今、(チームの順位は)何位なんだ?」と聞いてきたり…。
そんな日常を送る中で、父は、私たちがちょっと目を離したときに静かに亡くなりました。
多くの人は「苦しまないで死にたい」「いい死に方をしたい」といいますが、具体的にどんな最期を迎えればいいのか、はっきりしたイメージを描けていない方がほとんどだと思います。そんな人たちにとって、私の父がReHOPEで過ごした時間は、ひとつの理想的なサンプルになるのかもしれません。実際この話をすると、私の経験談をみんな詳しく聞きたがりますよ。
田中:
もともと、お父様が入居する施設を決めるにあたり、ReHOPEを選択されたのはなぜだったのでしょうか?
左伴:
数年前に、母が他界したときの経験が大きかったです。母は最期まで病院で点滴や管につながれ、誤嚥につながるからと水すら一滴も飲めずに、苦しんで亡くなっていきました。
それを一番近くで見ていた父が、自分自身に食道がんが見つかったとき、「自分は延命などしなくていいから、家のようなところで静かに暮らしたい」と。それまでホスピス型住宅という施設についてはもちろん、終末医療についての知識はほとんどありませんでした。
そこで当時、父が住んでいた介護付きのマンションの職員の方に相談したところ、ReHOPE 東戸塚をすすめてもらったんです。パンフレットをぱっと見た瞬間に、「これ、いいね」と思いました。一般的なマンションの一室みたいで、いわゆる“普通の暮らし”が送れそうな環境だったので、即決しました。

左伴 繁雄さん
田中:
ReHOPEでの生活は、いかがでしたでしょうか。
左伴:
医療や介護の専門家でありながら、それこそ隣近所の人が心配して様子を見に来てくれる、日常生活のお世話をしてくれる、という温度感がとてもありがたかったです。スタッフのみなさんの態度や言葉づかいなど一つひとつに、そうした姿勢が良く現れていますよね。
田中:
私たちスタッフも、入居されているみなさまが前を向いて生きていけるよう、支えることを大事にしています。だから、ご入居者さまのご家族にそうおっしゃっていただけると、本当に報われる思いです。
藪:
ホスピスケアは、もう治療が困難であると同時に一定の医療行為を必要としている人に対し、最期まで穏やかな生活を送っていただくために行うものです。ただしホスピスはご入居者さまを「死なせる場所」ではなく、「最期まで生をまっとうしてもらう場所」だと考えています。
前を向いて生きることを支えていくため、まずはご入居者さまが日々の暮らしの中で大切にしていることのプライオリティを上げ、そのうえで、自分たちが何をどこまで実現できるかを考えていく。スタッフは日々、医療行為の提供と同じくらい時間をかけて、そうした取り組みを行っています。
左伴:
これから先、ReHOPEさんのような施設やサービスのニーズは絶対に高くなっていきますよね。
私たちが拠点とする富山県は全国的にみても一戸建てが多い地域で、かつては二世帯、三世帯の家族が当たり前。親は家で看取るもの、と考えている人が多くいました。しかし今は核家族化が進み、もうそうした常識は成立しなくなっています。
だからこそ、自宅か病院かの二択ではなく、新しい看取り方が必要だと思います。私はReHOPEの施設にはじめて訪れたときから、自宅でも病院でもない、「疑似家族」のような印象を受けました。
藪:
まさにそうかもしれません。一人の人が人生の最期を受け入れていく過程において、家族の方もスタッフも含めて、みんなが常に仲良く過ごせるわけではありません。でもお互いにそうした時間と向き合い、関係性を築きながら最期の看取りにつながっていきます。
そうすると、スタッフもかなりのダメージを受けるんです。場合によっては本当のご家族より、多くの時間を過ごすこともありますしね。
左伴:
それはおっしゃる通りですよね。事実、本当の家族が看取るのだって大変なんですから。
藪:
おっしゃる通りです。ご入居者さまを「支える側」となるスタッフにも適切なケアが必要で、それも私たちが取り組むべき大きなテーマの一つだと考えています。

藪 康人さん
田中:
ReHOPEでは今、Jリーグのプロジェクト「Be supporters!」に参加し、ご入居者さまと一緒にサポーター活動を行っています。カターレ富山も、プロスポーツチームとして地域に根ざした活動にさまざま取り組まれていますよね。
左伴:
カターレ富山では、子どもと高齢者、障がい者の方々に対する活動および復興支援を、チーム運営と同等の重要な事業だと捉えて活動しています。
例えば高齢者の方が入居しているホームに選手を連れて訪問すると、みなさんが推しの選手を見つけてくれて、応援グッズをつくってくれたり、「今度はいつ来るの?」と聞かれるようになったりするんです。スタッフの方の話では「以前より表情が明るくなった」「サッカーを見に行きたいと言うようになった」など、さまざまな変化があるようです。
ただ、いつも頭をよぎるんです。みなさんが「生を楽しむ」ことに関しては、私たちがお役に立てるかもしれない。でも「最期を迎える準備」に関しては、みんなあまりにも知識不足、経験不足なのではないかと。そうした側面で、これからはReHOPEのような存在が必要になると思っています。
藪:
確かに何かきっかけがないと、自分や家族の「死」について考えられないですよね。考えたくても、何からはじめればいいかわからない、積極的に聞けない、という方も多そうです。
しかも最近では、自宅で家族を看取ることが珍しくなった今、実際に看取りを経験したことのある方は多くありません。だからこそ私たちがプロフェッショナルとして、みなさん自身の最期について考える場を提供していく意義があるのかもしれません。
一人ひとりに対して「人生の最期をどうするか」というところまでしっかり話し合い、実行していくことが私たちの役割ですから。
左伴:
歳を重ねていくと、楽しいことがあればあるほど、死に対する恐怖や不安な気持ちが出てくるものです。でも、その「考えたくない」という後ろ向きな気持ちを取り除き、肩の力を抜いて、生をまっとうするための準備をしていく必要がある。状況として受け入れがたいフェーズの話なのでハードルはありますが、だからこそきっかけが大事だと思うんですよね。
例えば、カターレ富山は地元の医療法人からも協賛をいただいているのですが、その法人が健康・栄養指導の普及に注力するにあたり、私たちのチームや選手たちが協力することで、一定数以上の集客効果が得られたケースがあります。そうしたきっかけをつくる入口として、私たちのようなスポーツクラブがあってもいいと思っています。

Be supporters!の様子
田中:
最後に、ReHOPEも含めたホスピス型住宅の今後について、期待されていることをお伺いできますか?
左伴:
ぜひ、もっともっと情報発信を強化していただきたいですね。先ほどもお話しましたが、ほとんどの人は、“いい最期”を迎えるための知識と経験が足りていない現状があります。具体的に、自分の人生の最期をどう考えていけばいいのか、どんな事例があるのか、さまざまな切り口で伝えていってほしいと思います。
もう一つは、働くスタッフのみなさんの育成とケアに、さらに力を注いでいただきたいです。
私自身、ReHOPEで父との時間を過ごす中で、スタッフのみなさんの姿勢やふるまいに、目から鱗が落ちるような思いをしたことが何度もありました。印象に残っているシーンはいくつもありますが、父が亡くなって最後に施設を後にするとき、お世話になったスタッフのみなさんが並んで一斉に頭を下げてくださって、エレベーターのドアが閉まるまで、そのまま誰も1ミリも動かなかったんです。
みなさんの思いのこもったその行動を目にし、涙がボロボロこぼれて止まりませんでした。あのときの感覚は、当事者としてその現場にいなかったらわからなかったと思います。
ぜひ、今の仕事のクオリティを維持していくために必要なケアを、しっかり継続していただきたいですね。
藪:
おっしゃる通り、ホスピスケアは人が紡ぎ出すサービスですので、どんなにAIなどを活用して業務効率化を図っていっても、「この場面で、この人にどう声をかけるべきか」などの最終的な判断はAIにはできない領域です。
スタッフ一人ひとりが何度も失敗を繰り返しながら、試行錯誤をして成長していく仕事ですので、その部分にしっかり時間をかけ、今後も大切にしていきます。
全国でホスピス型住宅を展開しているReHOPEでは、重い疾患や障がいがあっても誰もが自分らしく、前を向いて生きられるように心をこめてご入居者さまの毎日に寄り添っています。
全国の施設でご入居を受け付けておりますので、見学のお申し込みやお問い合わせなど、お気軽にご相談ください。
より詳しい情報を知りたい方は、ReHOPEのWebサイトをぜひご覧ください。