多系統萎縮症(MSA)の方の症状別ケアと利用できる介護施設、支援制度 | ReHOPE(リホープ) 看護と介護でよりそうホスピス型住宅(在宅ホスピス)
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多系統萎縮症(MSA)の方の症状別ケアと利用できる介護施設、支援制度

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この記事の監修者

河合 滋(かわい・しげる)

医療法人社団 西日本平郁会 ホームケアクリニック堺 院長

プロフィール

2006年 Medical School of Trinity College Dublin Ireland 卒業。2009年より社会医療法人ペガサス馬場記念病院 研修医として従事し、2011年より近畿大学医学部付属病院 脳神経内科で勤務。2019年よりホームケアクリニック堺にて院長として従事。

多系統萎縮症とは

多系統萎縮症(multiple system atrophy:MSA)は、16種類ある特定疾病のひとつです。自律神経障害に加え、錐体外路系(パーキンソン症状)と小脳系(運動失調)の3系統の症状がさまざまな割合で出現する神経変性疾患です。主なタイプとして、パーキンソン症状が目立つMSA-Pタイプと、小脳性運動失調が目立つ MSA-Cタイプがあります。

多系統萎縮症の正確な有病率は不明ですが、欧米の調査では10万人あたり2〜5人程度とされ、パーキンソン症状を呈する患者の約10%が多系統萎縮症と推定されています。発症年齢は平均55歳前後で、男女差はあまりないとされています。

小脳、大脳基底核、自律神経などの複数の神経系統が障害される脊髄小脳変性症の一種と考えられています。原因は不明ですが、中高年に発症し、比較的速やかに進行することが特徴的です。

進行性の疾患で、発症から5年程度で介助が必要となることが多いとされています。さまざまな症状に対する正しい理解と対処が、療養生活を送る上で重要となります。

多系統萎縮症の症状

多系統萎縮症は、自律神経障害に加えて、錐体外路系(パーキンソン症状)、小脳系(運動失調)の3系統の症状が出現する神経変性疾患です。主な症状には以下のようなものがあります。

自律神経障害が先行し、排尿障害(頻尿、尿失禁、残尿、尿閉)と起立性低血圧がみられます。起立時に失神したり意識が遠のいたりすることもあります。体温調節障害によりうつ熱(高体温)を生じることもあります。

一方、パーキンソン症状(振戦、動作緩慢、筋固縮、発声障害など)が目立つMSA-Pタイプと、小脳性運動失調(構音障害、体幹動揺、失調性歩行など)が前景に立つMSA-Cタイプがあります。初期はパーキンソン病との鑑別が難しい場合もありますが、薬剤への反応性が乏しく、経過が速いことが特徴です。

その他にも、痙縮(手足のつっぱり)や認知症などの高次脳機能障害、呼吸障害、性機能障害(勃起障害)、便秘などの消化器症状も現れます。発症初期はさまざまな症状がみられますが、徐々にふらつきやパーキンソン症状などといった「運動症状」とその他の「非運動症状」が重なることもあり、進行していきます。

多系統萎縮症の診断には、病歴の聴取、神経学的診察に加え、画像検査(CT、MRI、アイソトープ検査など)、血液検査、遺伝子検査などが行われる場合があります。初診時に確定診断に至らず、経過観察しながら診断に至る場合があります。

多系統萎縮症ではどのようなサポートが必要となるか

日常生活援助

多系統萎縮症の症状は徐々に進行していきますが、診断時の状態を把握し、できる限り従来の生活を維持する努力が重要です。

たとえ運動失調になっても、筋力は保たれている場合が多く、ゆっくりでも動作を続けることで日常生活動作をある程度維持できる可能性があります。残された身体機能を最大限活用し、積極的に取り組むことで機能の維持につながります。以下、特徴的な症状に対する対処法です。

【排尿障害へのサポート】

排尿障害は多系統萎縮症の最もよくある症状で、頻尿や尿失禁から始まり、進行期には残尿感を感じたり、尿が出にくくなります。これらは感染症の原因となり、腎盂腎炎を引き起こす恐れがあるため、中期以降の排尿状態には注意が必要です。

対処)
⚫︎ 残尿がある場合は、自己導尿を行うこともあります
具体的には、手を十分に洗浄し、尿道周囲を清潔にした上で、滅菌されたカテーテルを使います。1日数回、膀胱内の尿を排出します。

【排尿障害へのサポート】

起立性低血圧は多系統萎縮症の合併症のひとつで、体動で急激な血圧低下を起こし、めまい、失神などの症状が出現します。寝ている時は無症状でも、起き上がるまたは寝返りの直後に血圧が下がりめまいや意識消失を引き起こすため、入浴後や排泄時、こたつから立ち上がる際には特に注意が必要です。

対処)
⚫︎ ゆっくりと立ち上がる動作をします
⚫︎ 弾性ストッキングを着用し、脚から心臓への血流を促します
⚫︎ 塩分を多めに含む食事を取り、水分をこまめに補給します
⚫︎ ベッド上で横になる際は、ベッドの頭側を10cm程度高く保ちます

【パーキンソン症状へのサポート】

多系統萎縮症では、パーキンソン病でみられる安静時の規則的なふるえは稀で、手指のミオクローヌス様振戦(手指の不規則で小さなふるえ)が特徴的です。また、パーキンソン病は症状に左右差がありますが、多系統萎縮症では左右差が明確でない場合が多いです。

対処)
⚫︎ できる限り日常生活動作を続け、筋力と柔軟性を維持する努力が重要です
⚫︎ その他、呼吸障害が進行すれば人工呼吸器が必要になる場合もあります
⚫︎ 高度の嚥下障害では胃瘻造設を検討する必要があります
⚫︎ 発熱時は誤嚥性肺炎の可能性にも注意が必要です
⚫︎ 会話が困難になれば、文字盤などでコミュニケーションを図ります

各症状に適切に対処するとともに、残存機能を活用しながら生活の質を維持することが重要です。家族や介護者と協力して療養生活を送ることが不可欠となります。

症状管理、薬物療法

多系統萎縮症に対する明確な治療法は確立されていませんが、症状の進行を遅らせる対症療法や合併症への対処が行われます。主な症状と代表的な治療薬は以下の通りです。

主な症状 代表的な治療薬
運動失調症状(歩行障害、四肢失調、構音障害など) 経口脊髄小脳変性症治療剤、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン
錐体外路症状(パーキンソニズム、筋強剛、動作緩慢など) 抗パーキンソン病薬
錐体路症状(痙縮など) 筋弛緩薬
自律神経症状(起立性低血圧、排尿障害、発汗障害など) 自律神経調整薬

このように、多系統萎縮症では症状に応じた対症療法が中心となりますが、根本的な治療法の確立が望まれています。

リハビリテーション

リハビリテーションは日常生活活動度や生活の質の維持・向上を目的としています。多系統萎縮症の根本治療ではありませんが、理学療法・作業療法・言語療法などを行うことで症状を和らげ、身体機能の低下を防ぎ、長期の社会生活を可能にすることができます。

  • 転倒リスクを下げるため、起き上がり動作や歩行、会話は家族や介護者と一緒に行います
  • 拘縮予防として、可動域運動やストレッチを継続的に行います
  • 嚥下障害がある場合は、食形態を調整したり(とろみをつける等)、嚥下機能評価を受けたりします

精神的なサポート

病気との向き合い方は人それぞれですが、前向きな姿勢を持つことが重要です。つらい気持ちを抑えず受け入れ、専門家の支援を活用することで、自分なりの方法で心の整理ができます。気持ちの整理には時間がかかり、不安や怒り、悲しみなどの感情は当然のことです。これらの感情を無理に抑える必要はありません。つらい気持ちから逃げずに向き合うことが、健康的な心理状態に向かう第一歩となります。

専門家に相談したり、同病の患者や家族と交流したりすることで、視野が広がり落ち着いて受け止められるようになります。困難に対処する方法は人それぞれですが、自分に合った方法を見つけることが大切です。長期的にうつ状態が続く場合は、専門家に相談するとよいでしょう。

多系統萎縮症の症状により利用できる医療・介護サービス

医療・介護サービスには在宅医療や居宅サービス、施設入所サービス、介護保険で貸与・購入できる福祉用具などがあります。受けられる医療・介護サービスは症状の程度やお住まいの地域により異なりますが、病状の進行によって優先順位を決め利用していくことができます。

在宅医療

在宅医療を受けるには、かかりつけ医や受診している病院の医療相談室、地域の訪問看護ステーション、医師会、歯科医師会、ケアマネジャーへ相談するとよいでしょう。医師、看護師、歯科医師、薬剤師が自宅を訪問し、通院が困難になっても継続して治療やリハビリを受けられます。

居宅サービス

在宅介護サービスを利用するには、訪問介護(ホームヘルパーによる家事支援、身体介護)、訪問看護、訪問入浴介護、訪問リハビリ、通所リハビリ、デイサービス、ショートステイなどがあります。福祉用具の貸与も受けられます。利用できるサービスの種類と量は要介護度に応じて決まり、1〜3割の自己負担で受けられます。

詳しくはケアマネジャーやかかりつけ医、医療相談室、訪問看護ステーションなどに相談してみましょう。介護保険を活用して、在宅生活を支えるサービスを上手に組み合わせることが重要です。

施設入所サービス

介護保険では、介護老人保健施設、介護老人福祉施設、介護医療院の3種類の施設サービスを提供しています。体調管理、リハビリ、日常生活支援などのケアを受けられます。施設の種類により入所条件や特徴が異なるため、要介護度やニーズに応じて適切な施設を選択する必要があります。介護老人保健施設は要介護1以上で3カ月程度の短期入所、介護老人福祉施設は要介護3以上で終身利用可能、介護医療院は要介護1以上で長期療養と医療的管理が必要な方が対象となります。

介護保険で貸与・購入できる福祉用具

介護保険では、症状の進行に応じてさまざまな福祉用具のレンタルや購入ができます。初期段階では歩行器や杖などの移動補助具が中心となり、症状が進行すると車椅子や介護ベッド、移動リフトなどが必要になってきます。レンタル対象は車椅子、歩行器、ベッド、マットレスなどで、直接肌に触れるものは基本的に購入となります。

入浴や排泄関連の用具は購入対象となり、腰かけ便座や簡易浴槽などがあります。福祉用具のニーズは個人差があるため、レンタル・販売事業所の担当者と相談しながら、症状に合わせて適切な用具を選ぶことが重要です。

利用できるさまざまな助成制度

多系統萎縮症に関するさまざまな助成制度を紹介します。

難病医療費助成制度

「難病の患者に対する医療等に関する法律」に基づき、多系統萎縮症を含む341疾患が指定難病に指定されています(令和6年4月現在)。指定難病に認定されると、認定された疾病にかかる医療費の一部または全額が公費で助成されます。月額の自己負担額は所得に応じて定められた限度額までとなり、受診した複数の指定医療機関の自己負担額を合計して適用されます。医療費助成を受けるには、所定の手続きを行い、「特定医療費(指定難病)受給者証」の交付を受ける必要があります。

障害者手帳

身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の3種類があり、障害の程度に応じて福祉サービスを受けられます。身体障害者手帳は、視覚、聴覚、平衡機能、音声、言語、咀嚼、肢体不自由などの身体障害に対して指定医の診断に基づき交付されます。療育手帳は知的障害のある場合に、主に知能指数により障害の程度を判定し交付されます。精神障害者保健福祉手帳は、精神疾患のある場合に専門家の審査・判定に基づき交付されます。いずれの手帳も障害の程度によってサービス内容が異なります。

介護保険の特定疾病

特定疾病とは、一般的に65歳以上に多い16種類の疾病のことで、多系統萎縮症を含む難病も含まれています。40歳以上65歳未満でも発症が認められる場合、介護保険の第2号被保険者として認定を受けられ、介護サービスを利用できます。65歳以上の第1号被保険者と同様のサービスが受けられます。介護保険のサービスで不足する場合は、指定難病受給者証や身体障害者手帳を持っていれば、障害者総合支援法のサービスも合わせて利用可能です。多系統萎縮症は40歳以上であれば介護保険を利用できます。また、は医療費の一部助成も受けられる特定疾患(難病)に指定されています。

その他の制度

以下は、医療費の負担軽減と病気や障害時の生活支援に関する主な制度の概要です。

【高額療養費制度】

1カ月の医療費が一定額を超えた場合、超過分が約3カ月後に健康保険から還付される制度です。入院時に限度額適用認定証を提示すると、高額分が保険から直接病院に支払われ、窓口負担が軽減されます。

【疾病手当金】

病気療養のため会社を休んで給料が減った場合、職場の健康保険組合や協会けんぽから支給されます。国民健康保険には該当しません。

【障害基礎年金】

国民年金加入者が病気やケガで障害が残った場合に受け取れる年金です。老齢基礎年金とは異なり、年齢に関係なく受給できます。

【傷病手当金】

サラリーマンや公務員が病気で働けず給料が支払われない場合、所属する健康保険組合や共済組合から支給されます(最長1年6カ月)。国民健康保険は対象外です。

【失業保険(雇用保険の失業手当)】

会社員が離職し失業中の生活を支援するため、雇用保険から一定期間支給されます。

【雇用保険からの傷病手当】

ハローワークに求職申込後、病気やケガで働けなくなった場合に、基本手当と同額が雇用保険から支給されます。

医療費の負担軽減や病気・障害時の生活支援には、加入している保険制度によってさまざまな支援メニューがあるので、状況に応じて制度を確認し、活用することが重要です。

ホスピス型住宅ReHOPEで暮らす多系統萎縮症のご入居者さまの事例

当社が運営するホスピス型住宅ReHOPEにおいても、多系統萎縮症のご入居者さまを数多く受け入れております。ReHOPEスタッフが綴ったご入居者さまの事例をご紹介します。

Aさまの場合(50代)

・「できない理由」から「できる方法」へ 、選択肢を広げる支援
Aさまは多系統萎縮症と診断され、ホスピスに入居されてから3年が経ちました。症状の進行により、トイレや食事場面などで介助が必要となり、コミュニケーションも文字盤を使うようになりました。それにともない、Aさま自身もできていたことができなくなることで感情が乱れることもありました。食事は常食からソフト食へと変わりましたが、食べたいものを制限するだけではなく、パンをスープに浸すなど、朝はパンが食べたいというAさまの希望を叶える方法を見つけることで、楽しみを持てるようになりました。「できない理由」から「できる方法」へ、さまざまな選択肢をスタッフ同士で考え、その人が大切にしている時間をスタッフも大切にすることができたエピソードです。

Bさまの場合(50代)

・笑顔と感謝の日々、ホスピスで自分らしく前向きに生きる姿
Bさまは「自分らしく前向きに過ごすため」と3年前にホスピスの入居を決めた方です。病状の進行に伴いさまざまな変化に直面し、幼い子どもにその姿を見せたくなかったともお話しされていました。身体が動かなくなりはじめてからは、排泄や入浴のケア方法の受け入れが難しくなることもありました。しかし、スタッフは急かさずにBさまの希望に添ってネイルやヘアカラー、趣味の時間を設けるなど、生活スタイルを工夫していきました。病状が進み、気管切開の選択も迷いましたが、最終的にはAさんの意思を尊重し、気管切開をしないことになりました。Bさまは日々変化するなかでも笑顔を絶やさず、スタッフに感謝の言葉を伝え続けてくれています。Bさまの気持ちに寄り添い、今を精一杯生きるBさまとご家族との大切な時間を支援していくことを心がけています。

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全国で30カ所以上のホスピス型住宅を展開しているReHOPEでは、重い疾患や障害があっても誰もが自分らしく、前を向いて生きられるように心をこめてご入居者さまの毎日を支えます。

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