ホスピス型住宅のReHOPE | ホスピス・介護の基礎知識 | 病気を知る | 脊髄小脳変性症とは?必要なケアや利用できる支援制度を解説
投稿日: 更新日:
この記事の監修者
髙木 忍(たかぎ しのぶ)
株式会社シーユーシー・ホスピス|第2運営部 首都圏第一 ケアディレクター
プロフィール
県立看護学校を卒業後、病棟看護師として勤務。その後、医療法人にて看護部長を務めた後、2019年にCUCホスピスの前身のエムスリーナースサポートへ入社。在宅ホスピス西上尾(現ReHOPE西上尾)の看護管理者を経て、現在は首都圏第一エリアの看護スーパーバイザーとして、看護の質向上と組織運営に取り組んでいる。
脊髄小脳変性症は、運動機能やバランス感覚に影響を及ぼす進行性の病気です。徐々に歩行時のふらつきやろれつが回らないといった症状が現れ、日常生活に支障が生じる可能性があります。適切な治療を行いながら公的制度を活用し、安心して生活できる環境を整えることが大切です。
本記事では、脊髄小脳変性症の症状や治療方法、日常生活の工夫、利用できる支援制度について詳しく解説しています。ぜひ最後までお読みください。
脊髄小脳変性症(Spinocerebellar degeneration:SCD)とは、小脳や脊髄の働きが徐々に低下し、体が思うように動かなくなる病気です。
小脳は歩行や手の動きを調整し、バランスを保つ重要な役割を担っています。この病気では小脳や脊髄の神経細胞が減少し、体の動きがコントロールしづらくなる「運動失調」と呼ばれる症状が現れます。
なお、脊髄小脳変性症はひとつの病気の名前ではありません。小脳や脊髄が原因で、体の動きに影響が出る症状をまとめた呼び方です。そのため、症状の現れ方や進行の仕方は人によって異なります。
原因は遺伝性(家族に同じ病気の人がいる)と孤発性(原因がはっきりしない)の2種類に分けられます。
現在の医学では、根本的な治療法は見つかっていません。しかし、早い段階から治療を始めることで症状の進行を遅らせ、自分らしい生活を続けやすくなります。
脊髄小脳変性症では、体のバランスや動きに影響を与える症状が現れます。主な症状は次のとおりです。
脊髄小脳変性症の症状
また、人によっては筋肉のこわばりや動作の遅れなど、パーキンソン病に似た症状が起きる場合もあります。
症状の現れ方や進行の速さは人それぞれですが、ゆっくりと進行していくのが一般的です。また、病気が進行しても意識や思考はしっかりしており、会話も続けられます。
症状に応じた治療や支援を受けながら、できる限り自立した生活を送ることが大切です。
脊髄小脳変性症には、現時点で根本的な治療法がありません。そのため、病気の進行を遅らせ、できるだけ日常生活を続けるための対症療法が重要になります。対症療法とは、病気そのものを治すのではなく、症状を和らげ、生活をしやすくするための治療法です。
脊髄小脳変性症では症状に応じた薬の処方や、運動機能を維持するためのリハビリを取り入れながら、ご本人の日常生活をサポートしていきます。薬物療法や、機能訓練を毎日行ったり、日常生活動作を自分で行うことにより症状の進行を遅らせ、合併症の予防になります。
タルチレリン水和物(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン製剤)は、バランスの崩れやふらつきなどの運動失調に対して効果が期待される薬です。
また、抗パーキンソン薬は筋肉のこわばりや動作の遅れなどのパーキンソン症状を緩和する目的で用いられます。
他にも足のつっぱり感やめまい、排尿障害など、それぞれの症状に合わせた薬が処方されるでしょう。薬の効果には個人差があるため、医師と相談しながら治療を進めることが大切です。
脊髄小脳変性症では、できるだけ体を動かし、今ある体の機能をうまく使うことが大切です。主なリハビリの目的と訓練方法の一例を紹介します。
リハビリの目的 | 具体的な訓練方法 |
バランスや歩行の安定性を保つ | ・坂道の上り下りや方向転換の練習
・手すり付きのウォーキングマシンを使った歩行練習 |
関節の柔軟性を保つ | ・四肢や体幹のストレッチ
・片膝立ちを左右交互に繰り返す |
日常動作をサポート | ・床からの立ち上がり練習
・歩行中の減速・加速トレーニング |
発声や飲み込みをスムーズにする | パタカラ体操で「パ・タ・カ・ラ」と発声する体操や、舌、くちびる、喉の筋肉運動を行い、発語や飲み込みをスムーズにする |
また、早い段階から継続的に取り組むことで、できるだけ長く自立した生活を続けられるでしょう。
リハビリは一人ひとりの生活環境や体の状態に合わせて行うことが大切です。医師やリハビリの専門家と相談しながら、無理のない範囲で進めてください。
脊髄小脳変性症は、体の動きが不安定になり、日常生活にさまざまな影響を及ぼします。症状が進むと、転倒による骨折や誤嚥(ごえん)による肺炎のリスクが高まります。
そのため、以下のような生活環境の見直しと改善が重要です。
脊髄小脳変性症の方に必要なサポート
運動失調によるふらつきがあると転倒しやすくなり、怪我や骨折のリスクが高まります。そのため、安全に生活できる環境を整えることが大切です。
ご自宅での生活動線を確認し、転びやすい場所や危険なポイントを把握しましょう。特に、浴室や玄関や部屋の段差、階段などはつまずきやすく、注意が必要です。
小さな工夫でも転倒のリスクは減らせます。日頃の活動に合わせて対策を考えていくと良いでしょう。
脊髄小脳変性症が進行すると飲み込む力が弱くなり、食べ物や水分が気管に流れ込む誤嚥のリスクが高まります。ご本人の状態にあわせて、食材の形状や調理方法を見直しましょう。
食材は小さめにカットし、しっかりと加熱しましょう。プリンやかぼちゃの煮物など、舌で潰せるほど柔らかくすると飲み込みがしやすくなります。また、一口の量を少なくし、ゆっくり食べることも大切です。
水やお茶などの液体はむせやすいため、とろみをつけると誤嚥を防ぎやすくなります。
さらに、便秘予防のために水分や食物繊維、ヨーグルトや発酵食品を意識して摂ると良いでしょう。
食べることは尊厳を保つ上でも大切です。ご本人の意向を尊重しながら、できるだけ自分で食べることができるようにサポートすることが重要です。
脊髄小脳変性症の方は排尿や排便のコントロールが難しくなることがあります。
特に、排尿後も膀胱内に尿が残る「残尿」、尿意があっても排尿できない「尿閉」があると感染症のリスクが高まります。症状が進行すると、1日数回の自己導尿や、尿道カテーテルを留置することもあります。
また、便秘に関しては、食事の工夫や薬剤の使用が検討されます。医師に相談しながら、ご本人に合った方法で無理なく対策を進めていきましょう。
脊髄小脳変性症が進行すると、言葉を発することが難しくなっていきます。さらに、指の動きも悪くなることで筆談も難しくなり、意思を伝える手段が限られていくでしょう。早い段階からリハビリを行い、発語や手指機能の維持に努めることが大切です。
また、状態に応じて適切なコミュニケーションツールを取り入れましょう。文字盤やパソコンを利用した入力機器、会話補助装置などを活用することで、意思疎通がスムーズになる可能性があります。
医師に相談しながら、本人にあった方法を検討していきましょう。
脊髄小脳変性症と診断されると、ご本人やご家族は不安や戸惑いを感じることがあります。病気の進行や生活の変化に焦りや無力感を抱くことも少なくありません。
こうした気持ちは一人で抱え込まず、ご家族や医療者と共有することが大切です。臨床心理士やカウンセラーに相談することで不安やストレスが整理され、気持ちを軽くできるでしょう。
また、ご家族も支援グループや病院の相談窓口を活用し、精神的なサポートを受けることをおすすめします。
ご本人やご家族だけで抱え込む必要はありません。周囲のサポートを積極的に活用しながら、自分たちのペースで生活を続けていくことが大切です。
病気の進行に合わせた医療や介護のサポートを受けることで、ご自宅での生活を安心して続けられるでしょう。どのようなサービスがあるか知っておくと、必要時にスムーズに支援を受けられます。ここでは、以下のサービスを紹介します。
脊髄小脳変性症の方が利用できる医療・介護サービス
日常生活に支障が出てきたら、訪問介護や訪問リハビリなどの居宅サービスを活用しましょう。このサービスを活用することで、日常生活のサポートを受けながら、ご自宅での生活を続けることが可能です。
居宅サービスの一例は以下のとおりです。
訪問看護では、主治医と連携しながら健康管理や医療処置を行います。健康面だけでなく、精神面のケアも訪問看護の役割のひとつです。ご本人と社会との関わりやご家族の生活など、みなさまが安心して過ごせるようサポートします。
訪問介護では食事・入浴、排泄などの日常生活の介助、掃除や洗濯などの生活をサポートします。訪問リハビリテーションでは理学療法士や作業療法士により、身体機能の維持や回復を目的としたリハビリを行います。
詳しくは以下の記事で紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。
訪問看護とは?サービスの内容や利用方法について解説
自宅で療養する場合、以下のようなサービスを利用することもできます。
・通所介護デイサービス
・通所リハビリテーションデイケア
・短期入所ショートステイ
通所・短期入所型サービスでは、日帰りで入浴や食事の提供、レクリエーションやリハビリを受けることができます。
病気の状態によってはご自宅での生活が難しくなる場合があり、入居型の施設を利用する選択肢があります。施設ごとに受けられる介護や医療のレベルが異なるため、ご本人の症状や生活環境にあわせて選ぶことが大切です。
入居型の施設についてはこちらの記事でも紹介しています。
サービス付き高齢者向け住宅とは?ホスピスや有料老人ホームとの違いについて解説
老人ホームの種類と特徴を比較!費用・介護度別の選び方
ここでは主な入居施設と特徴を紹介します。
常に介護が必要で自宅での生活が困難な要介護度3以上の高齢者が入所できる施設です。入所者一人ひとりに合わせた計画に基づき、食事、入浴、排泄介助などの日常生活支援や介護、リハビリサービスを総合的に提供しています。また、看取りにも対応しています。公的な施設のため比較的費用が抑えられるのが特徴です。
介護度に関係なく入所できる民間の施設です。24時間介護スタッフが常駐しており、施設内の職員に寄り介護サービスが提供されます。日中は看護師も常駐しており、必要に応じて看護サービスや医療サービスの利用も可能です。
食事・入浴・排せつをサポートする介護サービスのほかにも、リハビリやレクリエーションなどのサービスもあり、自立に向けた活動などのサポートもあります。
自立・軽介護の60歳以上の方が入居する民間賃貸住宅です。相談員が常駐し、安否確認や生活相談などを行います。介護が必要な場合は基本的に居宅サービスを利用しますが、一部施設では施設スタッフから直接介護サポートを受けられます。安否確認だけでなく、一定の介護サービスも受けられることが特徴です。
要介護認定を受けた高齢者が長期にわたり医療的ケアを受けながら生活できる施設です。人工呼吸器の使用や気管切開などをしている方など、継続して高度な医療的ケアを必要とする方に適しています。
がんや難病の進行によって治療が困難になった方に、身体の痛みや精神的な不安をやわらげるホスピスケア(緩和ケア)を提供する入所施設です。看護師・介護士が24時間体制で対応できるため、高度な医療的ケアを必要とする方でも受け入れています。
ReHOPEもこのホスピス型住宅に該当します。詳しくは以下の記事をご覧ください。
ホスピスとは?施設の特徴や病院との違い・対象者や費用について解説
公的支援制度を活用することで、医療費や介護費などの負担が軽減できます。脊髄小脳変性症の方が利用できる公的支援制度について、ここでは以下のものを紹介します。
脊髄小脳変性症は国が指定する難病で、医療費助成の対象となります。指定医による診断を受け、お住まいの地域を管轄する保健所へ申請し、認定を受けると「医療受給者証」が交付されます。これにより、指定医療機関での医療費が助成されるため、自己負担が軽減されるでしょう。
出典:難病情報センター
病気の進行により運動能力に支障が生じた場合、身体障害者手帳を取得できます。申請には、自治体が指定する医師の診断書が必要で、各自治体の福祉窓口で手続き可能です。手帳を取得すると、税金の軽減や公共交通期間の割引などの支援を受けられます。
受けられるサービスは各自治体によって異なります。詳細はお住まいの自治体窓口で確認してください。
出典:東京都福祉局
通常、介護保険は65歳以上の方が対象です。しかし、脊髄小脳変性症は特定疾患に該当するため、40歳以上の方から介護認定を受けることができます。
要介護認定を受けると、訪問介護、訪問看護、福祉用具のレンタルなど、さまざまな介護保険サービスが利用可能となります。
出典:厚生労働省
他にも活用できる制度があります。
1カ月の医療費が自己負担限度額を超えた場合、超過分が後から払い戻される制度です。上限額は年齢や所得により定められています。また、事前に健康保険組合に申請し取得した限度額認定証、または健康保険証の利用登録を行っているマイナンバーカードを窓口で提示することで、支払いを抑えることが可能です。
詳しくはご自身が加入する健康保険組合に確認してください。
40歳未満の方は、障害者総合支援法に基づき訪問介護、移動支援、就労支援サービスなどが利用できます。利用を希望する方は、市町村の窓口に申請し、障害支援区分の認定を受ける必要があります。
病気の進行により就労が難しくなった場合、雇用保険の「失業手当」や健康保険の「傷病手当金」を受け取れる可能性があります。詳細は、ハローワークや加入している健康保険組合に問い合わせると良いでしょう。
年金を受給していない65歳未満で、脊髄小脳変性症により日常生活が難しくなった場合、障害基礎年金や障害、障害厚生年金の対象となる可能性があります。障害等級に応じて支給額が異なります。詳細は、お近くの年金事務所や年金相談センターに確認してください。
多くの自治体では重度の障害を持つ方に対して、医療費の自己負担分を助成する制度を設けています。助成内容は地域ごとに変わるので、お住まいの福祉窓口で詳細を確認すると良いでしょう。これらの支援制度を活用することで、経済的な負担を抑えながら安心して療養生活を続けることができます。申請や手続きには、医師の診断書や必要書類が決められているため、各自治体の福祉窓口やケアマネージャーと相談をしながら進めましょう。
脊髄小脳変性症は個人差はありますが、徐々に運動機能が低下していく病気です。現時点では根本的な治療法はありません。しかし、適切な薬物治療やリハビリテーションで進行速度を遅らせることが可能です。また、手すりの設置やベッドの導入など、病気の進行に合わせて環境を整えることで、ご自宅での生活を続けやすくなります。さらに、国や自治体には、医療費助成や介護保険制度など様々な公的支援が用意されています。安心して生活するために、積極的に活用していきましょう。
脊髄小脳変性症とは、徐々に運動機能が低下していく病気です。歩行時のふらつきや、手足の動かしにくさなどの症状が現れ、日常生活に支障をきたすことがあります。
現在の医学では、根本的な治療法はありませんが、薬物療法やリハビリによって症状の進行を抑えながら生活を続けていくことが可能です。
詳しくは記事内の「脊髄小脳変性症とは」をご覧ください。
脊髄小脳変性症の進行に 応じてご本人の状態に合った医療や介護サポートを受けることが大切です。主なサポートは以下の3つになります。
記事内の「脊髄小脳変性症の方が利用できる医療・介護サービス」で詳しく解説しています。
脊髄小脳変性症の方は、公的な支援制度を活用できます。主な制度として「難病医療費助成制度」「身体障害者手帳」「介護保険」などがあります。
ほかにも利用できる制度を記事内の「脊髄小脳変性症の方が利用できる公的支援制度」で紹介していますのでぜひご覧ください。
当社が運営するReHOPEは、がん末期や難病を抱える方々を対象にしたホスピス型住宅です。医療・介護の専門スタッフが、24時間365日体制で安心できるケアを提供し、ご入居者さまが自分らしい生活を送れるようサポートしています。
ReHOPEでは、全国でホスピス型住宅を運営しており、脊髄小脳変性症の方の入居も可能です。常駐スタッフが日常生活のサポートから医療サービスまで、一人ひとりに寄り添ったケアを行います。また、地域の医療機関や多職種と連携し、心身のケアを総合的に提供しているのもReHOPEの特徴です。
全国の施設で見学受付中です。見学のお申し込みやお問い合わせなど、お気軽にご相談ください。
施設一覧はこちらからご覧いただけます。
ReHOPEでは、一緒に働く看護師の仲間を募集しています。
「もう一度好きなものを食べたい」「家族に会いたい」
そんなご入居様の思いに寄り添い、最後までその人らしい生活を支える。看護師としてご入居様の生きる喜びを一緒に支えていきませんか?
全国の求人情報はReHOPEの採用Webサイトからご確認いただけます。