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【介護職対談】ホスピスはただ最期を待つだけの場所ではない。生活を支える上で大切なこと

この記事の対談者

  • 介護職

    仲野谷 久美子

  • 介護職

    金子 喜代美

対談者プロフィール

  • 介護職

    仲野谷 久美子

    長年一般企業で勤務してきたが、結婚・出産を経て人生に一区切りを迎え、以前より関心のあった介護職への転身を決意。2020年3月年よりCUCホスピスで介護職の仕事に従事。

  • 介護職

    金子 喜代美

    小規模多機能型居宅介護施設にてご入居者さまの看取りを経験。一人ひとりの人生の最後に関わる仕事を極めたいという想いで、2019年10月よりCUCホスピスで介護職の仕事に従事。

ご入居者さまのもっとも近くで日々コミュニケーションをとりながら、その生活を支えていく介護職。今回は2名の介護職スタッフに、仕事を通して日々感じること、やりがいについて聞きました。

介護の仕事は、顔を見せてコミュニケーションをすることから始まる

生活支援をする中で気を配っていることはどんなことでしょうか?

【仲野谷】「一介護・一笑い」を心がけています。ご入居者さまに、「この介護職が来ると楽しい会話や時間が生まれるな」と感じてもらうことで、最期の日々を少しでもレベルアップしてもらえるといいな、と思っているんです。ほんのささいなことでもいいので、「この施設に入って最期を迎える選択をしてよかった」と感じていただければと。

【金子】1日1度は皆さんのお部屋に行って、お顔を拝見することを心がけています。中には、話しかけられるのを躊躇される方もいらっしゃいますが、挨拶のような小さな会話を重ねて、少しずつコミュニケーションを取るようにしています。特に、何かを言いたくてもなかなか伝えられない方のご要望を、いかに聞き出すかということに気を配っています。

【仲野谷】私も、会話の糸口を見つけることは大事にしています。「若い時はどうだったんですか?」「ご家族はどんな方なんですか?」といった日常的な会話から始まり、最終的にはご家族も巻き込んで、「最期の瞬間にはどういうことをしたいですか?」と踏み込んだ会話をさせていただいて。ご入居者さまが思ったことを少しでも伝えてくださり、「私の人生、これでよかったんだ」と思える環境づくりを大事にしていますね。

「食べたいものを食べていただきたい」その一心で重ねた試行錯誤

印象的なご入居者さまのエピソードを聞かせてください。

【仲野谷】筋肉が硬くなり、機能不全に陥ってしまう多系統萎縮を患っている女性の方とのエピソードが印象的です。その方は、少しずつ嚥下機能が弱くなって、いずれは物をほとんど食べられなくなってしまうという厳しい症状を抱えておられました。

健康な人のように体調が戻ればまた食べられるわけではない状況でした。私たちにできることはないだろうかと悩みました。

【金子】彼女の「好きなものを食べたい」という欲求は、本当に毎日ひしひしと感じていたので、ぜひ介護職である私たちもできることに取り組みたいと思いました。「食べられないから食べさせない」ではいけないなと考えるようになったんです。

【仲野谷】その方の食べたいとおっしゃるものを看護師の元へ持っていき、「私たち介護職にもできることはないか?」と尋ねながら、食材を細かく刻むなど、安全な食形態を試行錯誤しました。

【金子】いまは、食べられそうなものをペーストやゼリー状にして、姿勢に気をつけながら食べていただいています。そうした行動を見て、他のスタッフも少しずつ協力してくれるようになってきました。みんなが参加してくれるようになり、本当に心強く感じています。

ホスピスという場所にも、普通の「生活」が根付いていることを伝えていく

ホスピスで働くことの意義についてどう考えていますか?

【金子】ホスピスという性質上、長いスパンでご入居者さまの健康な生活を捉えることは基本的にはできません。 介護施設では年単位で在籍する方もいらっしゃいますが、ホスピスでは難病のご入居者さまだと平均200日ほどなんです。

そのため、たとえば、今日できたことが明日できなくなってしまったりする方も少なくありません。そうした意味では、「小さなつぶやき」みたいなものに隠されたご要望を、できる限り聞き逃してはいけないと思って日々アンテナを立てて仕事をしています。

【仲野谷】もちろんご入居者さまも人生に後悔を残したくないでしょうし、私たちだって後悔の残る介護をしたくはありません。どうしたって無念のようなものは残るかもしれないけれど、できる限り一つでもそれを減らして差し上げたいですね。

ホスピスのイメージというと、入居している方はみんな一日中ベッドに寝ていて、そのまま亡くなっていく場所というちょっと暗い感じを想像される方もいるかもしれませんが、 実際にはそこには普通の「生活」があるということを忘れてはいけないと思っています。

【金子】ゆくゆくは最期を迎えることにはなるかもしれないけれど、皆さんどんなに重い病気をお持ちであっても 寝て、食べて、入浴をしたりしながら、人生を過ごしておられますから。

【仲野谷】そうなんです。だから「最期のときまで、普通の生活ができる場所なんだよ」ということを少しでも外に伝えていきたいです。

【金子】私たち自身も、たまに自問自答はしていますね。「その人らしい最期を」と思ってはいるけれど、もしかしたら勝手なその人らしさを押し付けてないか、その人は本当に最期こういうふうに亡くなりたいのかな、とか。

ご家族様と話せる機会があればそれとなく聞いてみたり、記録を読んだりして、その上でご本人とお話をして、少しでもお気持ちに寄り添えるよう仕事をするようにしています。

プロとして、ご入居者さまの想いに100パーセントの気持ちで応えたい

今後どのようにご入居者さまと向き合っていきたいか聞かせてください。

【仲野谷】ご入居者さまの真の想いというのは、やっぱりご本人にしかわからないことではあるんですね。ただその想いに毎日触れている以上、100パーセントの気持ちでそれに応えるのが介護職という仕事の根っこにあると思っています。

【金子】それを忘れてしまうと、たとえば「食べられませんか、それならば最低限しか食べさせることはできません」とバッサリ切り捨てるような、ある意味でないがしろな介護になってしまう。それはプロの介護の仕事とはいえませんよね。

【仲野谷】そうですね。私たちが職務をおざなりしてしまったら、ご入居者さまの人生自体が悔いの残る形で終わってしまいか ねない。そんな重みのある仕事だということを常に忘れずに、介護者として精一杯前向きに関わり続けていきたいです。