INTERVIEW

理学療法士インタビュー

生きる希望を叶えるためのピースの一つとして、 理学療法士の視点でサポートする

理学療法士 伊藤 大樹さん

高校野球に取り組むなか、自身のケガがきっかけで理学療法士という仕事を知る。「スポーツに関わる仕事がしたい」という想いから理学療法士を志し、専門学校に入学。実習、がん末期の方がリハビリに取り組まれる姿に感銘を受け、2019年4月に新卒でCUCホスピスに入社。東京・神奈川エリアの3施設でご入居者さまのリハビリを担当する。

「がん末期のリハビリに関わりたい」余命を知りつつも前向きにリハビリをする姿を見て生じた想い

これまでのご経歴を教えてください。

長崎県出身で、地元の高校を卒業した後、理学療法士の資格を取得するために福岡県の専門学校に通いました。実は初めから理学療法士になりたいと思っていたわけではなくて、「なんとなく」選んだのがこの道だったんです。

高校では野球部だったので、ケガをすることが多く、理学療法士の方にリハビリをしてもらう機会がありました。漠然とですが、スポーツに関わる人を支える仕事に就きたいと思ったことも、理学療法士を目指した理由のひとつです。

理学療法士になれば、自分がリハビリを受けた時の経験を生かせますし、資格としての専門性の高さにも魅力を感じました。卒業後は、CUCホスピスに新卒で入社しました。

なぜCUCホスピスを選ばれたのですか?

新卒の場合、理学療法士の就職先としては、病院や整形外科クリニックなどが一般的かもしれません。ただ、私の場合はがん末期の方へのリハビリに興味があったので、CUCホスピスを選びました。ここならば自分が求めるリハビリができるのではないか、と考えました。

がん末期の方へのリハビリに興味を持ったのは、専門学校での実習がきっかけです。もともとはスポーツに関わる仕事がしたいと思っていましたが、がん末期の方のリハビリを見る機会があり、そこが今のキャリアに大きな影響を与えています。

リハビリをしていたのは、余命が1、2カ月と言われていた方でした。ご自身の余命を知りつつも、一生懸命リハビリをされていました。いずれ来る死を受け入れてはいるけれど、生きることをあきらめてはいない。

その前向きな姿を見て、私は人間らしい“矛盾”のようなものを感じました。そこに興味が湧いて、がん末期の方のリハビリをしたいと思うようになったのです。

仕事はどのように覚えていきましたか?

入社して研修を終えると、翌日からはすぐに現場で働き始めました。私が配属されたのは、セラピストが1人しかいない施設。自分であれこれ試しながら、ご入居者さまにより良いリハビリをするためにはどうすればよいのかを探っていきました。新しい環境での挑戦でしたが、不安よりもワクワクする気持ちが大きかったです。

難しかったのは、看護師や介護職との連携です。専門学校ではリハビリの技術については学びますが、他の職種のスタッフと一緒に働くのは初めての経験です。最初は他のスタッフが何をしているのかも分からない状態でしたが、それぞれの働き方を見て、分からないところは自分から質問をしながら、学んでいきました。

慣れるまで時間はかかりましたが、今では多職種と一緒に仕事をするときの立ち回り方や、お互いに協力してケアをするためのポイントもつかめてきました。

がん末期や難病の方へのケアはどのように学んだのですか?

CUCホスピスには、人工呼吸器などの医療機器を使用しているご入居者さまも多くいらっしゃいます。初めはそうした機器の操作に苦手意識がありましたが、看護師に教えてもらうことはもちろん、時にはご入居者さまご本人からも教えてもらいながら学んでいきました。

人工呼吸器を付けていても、意外とコミュニケーションはとれるものです。「今、苦しくないですか?」とお聞きしたり、注意して表情を見たりすることで、安全を確認しています。何か異変を感じた時には、すぐに看護師を呼ぶことができるのも助かっています。

症状が進行していく疾患で、リハビリをする難しさを実感

現在のお仕事内容を教えてください。

朝9時に始業し、まずは夜勤帯のスタッフからの申し送りを受けます。カンファレンスでご入居者さまの情報を共有し、そこで気になることがあればしっかり確認をしておきます。その後、パソコンで事務作業をして、10時からはご入居者さまのお部屋を回ります。午前中に3名ほど、午後は7名ほどのリハビリを担当しています。

人工呼吸器を付けている方には呼吸リハビリを、歩ける方には歩行訓練を行うなど、ご入居者さま一人ひとりに合わせてメニューを考えます。拘縮が強い方には関節可動域運動で、関節や筋肉の状態を整えていきます。17時頃にはリハビリを終えて、日勤帯から夜勤帯への申し送りをするのが1日の流れです。

CUCホスピスで働く中での難しさは?

ご入居者さまの多くは、進行性の疾患を抱えています。そのため、リハビリによって短期的な改善はみられても、病気の進行によって徐々に症状は悪化してしまいます。症状が良くなる、歩けるようになるなど、リハビリの効果がはっきりとは見えないので、どうしてもやりがいを見出すのが難しいところがあります。

ただ、リハビリは結果だけでなく、リハビリを受けたご入居者さまがどう感じたのか、主観も大事だと思っています。リハビリによってご入居者さまに少しでも笑顔になってもらえたら嬉しいですし、それがやりがいになっています。

CUCホスピスで働く上での魅力は? 

数字やノルマの達成のためではなく、ご入居者さまの気持ちに寄り添うことができるのが魅力です。些細なことでも、ご入居者さまの希望を叶えられた瞬間には、やりがいを感じます。

またCUCホスピスでは、セラピスト以外のキャリアにも挑戦できる環境があります。主任や施設長のようなマネジメント職にもなれる可能性があるのも魅力ではないでしょうか。

 

諦めないコミュニケーションで心の扉を開く

ご入居者さまの希望を叶えるために、理学療法士としてどんなことをしていますか?

例えば、車いすに乗って出かけたいという希望を叶えるためには、車いすの選定から、座った状態を保つための関節可動域を確保すること、呼吸状態を安定させるためのリハビリが必要です。希望を叶えてあげたいと思うと、新しい課題がどんどん出てきます。それを一つずつクリアしながら、目標に向かって動いていきます。

課題と向き合う中で、「お尻の位置を変えたほうがいい」「体の角度を変えたほうが安定する」など、理学療法士だからこそ気付けることもあります。同じように、看護師や介護職だからこそ気付けることもあるので、スタッフ全員で協力することが大事です。理学療法士としての視点を生かして、自分もピースのひとつとして役に立てた時には大きな喜びを感じます。

印象に残るご入居者さまとのエピソードはありますか?

一番印象に残っているのは、難病のご入居者さまとのやり取りです。初めはうまくコミュニケーションがとれずに、落ち込んだこともありました。でも、あきらめずに会話をすることを心がけてリハビリを続けたところ、徐々に心を開いてもらえたのです。

その方からは、「あなたにしか分からない私の気持ちがあると思う」と言われました。私が、コミュニケーションに悩んでいたときに、やはりご入居者さまも同じように不安を抱えていたのでしょう。そのモヤモヤした気持ちは、お互いにしか分からないものでした。

そんな話をするようになってから、不思議とお互いの心が通じ合ったのを感じました。めげずにやり続けてよかったな、と嬉しかったです。

実際に働いたことで、がん末期の方のリハビリを通して感じた“矛盾”の見え方は変わりましたか?

ホスピスで働くようになって、人が生きるためには絶対に希望が必要なのだと思うようになりました。たとえ余命が限られていたとしても、「喉が渇いたから水が飲みたい」「車いすで出かけたい」といった小さな願望は誰にでもあるものです。その希望がなくなってしまったら、きっとつらい気持ちになるはずです。

「たとえ余命が限られていたとしてもリハビリを頑張る」という、一見矛盾のような希望があることで、それを支えにして人は生きていけるのではないでしょうか。食べたいものがある、見たい景色がある、話したい人がいる。そうした願いがあるからこそ、生きる希望が湧いてくる。その希望を叶えるためのサポートをするのが、私たちセラピストの役割だと思っています。

 

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